2023/01/25 22歳の原点ノート「インド」
午前九時のアラームで目を覚ます。
四時に就寝したのは覚えているが、アラームを設定した記憶が無い。
当然、睡眠時間が足りないので二度寝をする。
正午、遠くで鳴る音に呼び起こされた。
実際は布団に埋もれていたスマホの着信音で、慌てて手に取ったが切れてしまった。
相手はカレー屋の店員、”ZAIKA"さんだ。
以前働いていた職場の近くで、ナンの美味しいカレー屋がある。
そこは取引先でもあった。
僕はその店の担当に当てられ、店長の”RAMOLA"さんとやり取りしていた。
退職を決めた時期のある日の帰り、夕食のつもりで寄る事にした。
会計の際、店員であるZAIKAさんが話し掛けてきた。
相談事が有るそうだ。
そのまま外に誘導される。
「あなた、カンバンちゅくる?」
彼は、店長には秘密で自分の店を持とうとしていた。
僕も透かさずOKサインを出した。
聞けばオープンする場所も決まっておらず、先の話である。
その方が”自分の仕事”にするには都合が良かった。
個人の電話番号を伝え、進展があれば”僕に”連絡を貰える様にしていた。
それから二週間後、その又二週間後、二回連絡をしたが、特に動きは無かった。
折返すと直ぐに繋がった。
場所が決まったようだが、県内の田舎の地名が挙げられる。
まずは今日、一四時半から会って話がしたいと言う。
つまり、片道一時間掛けて前の職場に向かう必要が有った。
「今日はちょっと…」と渋れば、「あしたの一四時半ならコレル?」というので了承した。
どの道この糞寒い中、行かなければならない。
去年の四月にここへ引っ越して、会社には十一月まで自転車で通っていた。
暫く長距離乗っていない上に、この寒波の中だ。
明らかにしんどい。
今は失業保険の為に、この件を収入には出来ない。
それは、支払いを後に回して貰えるよう交渉すれば大丈夫か?
朝のシャワーを浴びながら、色々な問題について考えた。
兎にも角にも、内容を知らない事には始まらない。
風呂を出て時間を確認すると、今直ぐに向かって二時半に間に合うかどうかだ。
ZAIKAさんに再度電話を掛ける。
「三時なら今日でも大丈夫です!」と伝えると了承してくれた。
もう会社の縛りは無い為、私服で良いだろう。
首元が出るアンダーシャツを着るかを迷ったが、今は見栄え重視だ。
寒くて後悔するかも知れないが、頑張ろう。
今、”自分の仕事にしよう”と電話番号を伝えた時と同じ感覚だ。
自分が想像していない段階に自ら踏み出して、興奮している。
リュックにPCを詰め、カレー屋に向かう。
この日のサイクリングは、寒い上に向かい風で地獄だ。
あまりの風に息が出来ずに苦しいし、体のあちこちが有り得ない程痒い。
当時よりも進みが遅く、予定時刻丁度に到着した。
店に入って挨拶をする。
瓦屋根に看板を取り付けたい様だ。
道沿いのポール看板の画面交換も有る。
その時点で僕だけでは対処の仕様が無い為、工事の発注が必須である。
その他はパウチのメニュー表、チラシ、ポスター、カレーの写真パネル。
ざっとそれらをメモで打ち込んでいく。
金額を聞かれ、想像の付くものは参考価格を伝える。
ZAIKAさんが、僕と一緒に現場を見に行きたいと言う。
「車はありますか?」
「いや、ナイ」
「店には行ったことはありますか?」
「アル」
「その時はどうやって行きましたか?」
どうやら内装工事が終わっているらしく、依頼者に乗せていって貰ったらしい。
車のない状態でこの先どうすれば良い。
少し焦っていた。
ZAIKAさんは椅子に寝転び、「ちょっとネテいい?」と言い出す。
こちらとしては少し考える時間が欲しいので好都合だった。
ノートとペンを取り出し、PCに打ったメモを左のページに書き出した。
冷静に見つめ直す。
考えがまとまった。
説明用に、ページを変えて項目分けする。
準備が整い頭で整理していると、一〇分も経っていないが彼は起き上がる。
大げさに、ネテましたカ?スミマセン!と手を合わせて謝る。
弱みを見せて打ち解けようとする風習か何かだろうか?
「今後の方針をまとめました」
そう言って説明を始める。
看板二種類は、僕の以前の職場に制作・施工を任せる事にした。
屋根の取付方法と、ポール画面の板寸を彼に教示して貰う。
その他の小物は、発注先に目処は付けられるだろう。
僕がするのは、全てのデザインと小物の手配である事を伝えた。
最後に一番大事なことを言う。
彼には直接会社に行って貰い、デザインは”友人に任せる”とだけ伝えて貰うことだ。
会社に僕の関与はバレてはならない。
よく理解してくれた様で、その流れで進める。
会社に行った日、こちらに連絡が入る事になった。
「何なら本当に友人に成っても良いかもですね」
勢いでそんな事を言ってみるが、あまり伝わっていない様だ。
その後LINEを交換した。
早めに小物のデザインの初案を見せて意見を貰おう。
彼が会社にスムーズに寸法を聞ける様に資料も作っておこう。
話を終え、店を出る。
帰り、当時通っていたスーパーに寄る。
この店の特徴である”半額の餅”に目を付けて、他に買い得なものが無いか見て回る。
白味噌が一〇〇円なので、年始に食べられ無かった雑煮を作ろうと思った。
再び餅コーナーに行くと、さっきまであった半額の餅が無く成っていた。
仕方なく、もう一つこの店の特徴である”半額の赤飯”を買う。
今度は、帰り道にあるショッピングモールに寄った。
チェーン店が並ぶ飲食コーナーで赤飯を食べる。
目に入ったマクドナルドが気になった。
最近又値上がりしたらしいので、アプリでメニューを覗いてみる。
ポテナゲ大が一〇〇円高騰している事にショックを受けた。
一方、クーポンでポテトLが一〇〇円引きで二七〇円になっている。
KODOのアンケートに答え、コーラのSとポテトで注文した。
外に出ると日が暮れていた。
日光が有る内に帰るべきだった。
ただ、追い風なので行きよりかは楽に感じた。
いつも利用しているスーパーに立ち寄り、追加で鶏胸肉、豚ロース、ファンタ、梅酒を購入する。
店員が可愛かった。
部屋に戻り、冷蔵庫に食材を片付けてからアミコに出かけた。
穴場は誰も居ない。
やはりここが一番安らぐ。
今日の寒さと疲れが、室温により溶けていく。
暫く休んでから作業を始める。
店名は”ZAIKAインドカレー”にするらしい。
残り一時間に成った所で、二十歳の原点ノートを手に取る。
精神分れつ症という詩から始まった。
恐らくそれは、彼女自身の事を書いている。
彼女が親友に成りたいと思った倉敷さんは、自分よりも豊原さんを信頼している、と考え悲しんでいる。
他人の日常を読んで、感情移入して、時には自分がその場にいる事を妄想する。
今間違いなく、以前は読めなかったこの日記に興味を抱いている。
閉店時間になり、部屋に戻る。
白菜とじゃがいもを切り、水を入れた鍋に放る。
火に掛け暫く煮込んだ後、適当に味の素と塩、白味噌を加えた。
出汁が無いので味が心配だったが、どうやら白味噌は優秀らしい。
一度鍋を避けて、もう一つの鍋でインスタントのうどんを茹でる。
味噌のスープに移し、温め直して食べた。
風呂に浸かってから、日記を書き始めた。
この後、唐揚げでも仕込もう。